仙台高等裁判所秋田支部 平成5年(ネ)40号 判決 1997年7月30日
控訴人
小林広秀
外一三名
控訴人ら訴訟代理人弁護士
深井昭二
同
金野繁
同
金野和子
同
横道二三男
同
山内滿
同
狩野節子
同
沼田敏明
同
虻川高範
同
菊地修
同
小林昶
同
荘司昊
同
高橋敏郎
同
伊藤治兵衛
同
川田繁幸
被控訴人
東日本旅客鉄道株式会社
右代表者代表取締役
松田昌士
右訴訟代理人弁護士
内藤徹
主文
控訴人らの本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 控訴人らは、「原判決を取り消す。控訴人らが、被控訴人との間で、それぞれ、原判決添付別紙(一)発令一覧表の現職場欄記載の各職場に勤務する義務がなく、同表の原職場欄記載の各職場に勤務する権利を有することを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
第二 事案の概要は、当事者双方において次のとおり主張するほか、原判決の「第二 事案の概要」に摘示のとおりである(原判決一枚目裏一行目冒頭から同一三枚目裏四行目末尾まで)から、これを引用する。
(控訴人らの当審における主張)
一 原判決は、控訴人らの主張する日本国有鉄道(国鉄)と被控訴人会社との実質的同一性の主張に対して、「日本国有鉄道改革法(改革法)上、国鉄の事業等は被控訴人を含む承継法人が引き継ぐとされているものの、職員との労働関係については、当然承継するものではなく、国鉄の職員のうち、一部を被控訴人等に採用させ、その余は清算事業団に残留させるという形をとったことが明らかであり、控訴人らの主張は、同法の解釈論としては支持し得ないものといわなければならない。」(原判決の引用にあたっては、以下、原告を控訴人、被告を被控訴人と読み替える。)と判示している。
しかし、控訴人らは、「国鉄と被控訴人会社との実質的同一性」を、不当労働行為制度の適用において、主張しているのである。商法上の法人格が別の二つの法人があっても、それらに、実質的な同一性を認められる場合には、一方の不当労働行為の責任を他方に負わせるという形で、不当労働行為制度が適用され、救済されていることは、不当労働行為を定めた労働組合法の解釈上も、確立されている。その場合、二つの法人の間で、職員や社員の労働関係が当然承継されるか否かは、重要ではない。重要なのは、不当労働行為が行われた背景と経過を踏まえて、不当労働行為による救済の責任を負わせることができるか否かである。そこでは、形式的な社員の労働関係の継承の形は、必ずしも重要ではない。原判決自体も、「国鉄の職員のうち、一部を被控訴人等に採用させ、その余は清算事業団に残留させるという形をとったこと」と言うように、職員の継承のしかたがそのような『形』であったことを認めている。つまり、それは、法律形式上のことであって、仕組みとしてはそのようになっていただけなのである。では、実際はどうだったのか。この点については、原判決は触れていないが、被控訴人会社の社員にあっては、ほとんど、全員、国鉄からの職員が希望通り採用されていることは、証拠上も明らかであり、被控訴人自身もあえて争ってはいない。つまり、実態としては、「国鉄の職員のうち、一部を被控訴人等に採用させ、その余は清算事業団に残留させる」ことになったのではなく、国鉄の職員がほとんど例外なく被控訴人会社に採用されているのである。そして、事業自体が承継されていることは争いないのであるから、国鉄と被控訴人会社とは、実質的に同一であると言ってなんら実態に反するわけでない。そして、それら実質的に同一である両者が、その移行の際に一方が行った不当労働行為の責任を、移行後に存在している他方が負うことによって、不当労働行為からの救済を図るのが、不当労働行為制度の適用の結果なのである。控訴人らのこのような主張に対して、単に、原判決のいう、改革法の「建前」だけを示して、その「建前」の改革法の「解釈論」として、支持し得ない、と言うのは、全く的はずれである。控訴人らは、改革法の解釈論ではなく、労働組合法の解釈を、求めているのであるから、原判決は、的はずれも甚だしい。
二 また、原判決は、本件配転命令による異動が、昭和六二年四月一日「被控訴人を含む新会社が設立された以降の新会社における業務の円滑な運営をも意図したものではあるが、だからといって、右命令によって、新会社における勤務場所が決まるわけではなく、新会社に採用されなければ同社において勤務し得ないことは明らかである。」と判示していながら、新会社での勤務箇所を示した本件配属通知について、これは、「国鉄における本件配転命令による異動後の勤務箇所、職名を被控訴人におけるそれに機械的に読み替えて通知したものに過ぎ」ないとも判示している(同三一枚目裏)。しかも、本件配転命令を受けた控訴人らは、既にその時点において、被控訴人設立委員から、採用通知を受けていたのである。従って、論理必然的に、当然、本件配転命令によって、控訴人らの新会社における勤務箇所が決定されることとなる。ところが、前記の通り、原判決は、「だからといって、右命令によって、新会社における勤務場所が決まるわけではな」いと判示するのであるが、これは、右の通り、原判決の前記判示とも矛盾している。しかも、「新会社に採用されなければ同社において勤務し得ないことは明らかである。」とも判示しているが、これも、全く実態に反した不可解な判断である。一体、原判決は、控訴人らのように採用通知まで受けた国鉄職員が、新会社に採用されないこともあったとでも言うのであろうか。このように、原判決の右判示は、全く論理矛盾で実態に反しているものと言うほかない。
三 そして、原判決は、右判示に続いて、「控訴人らの被控訴人における採用時の勤務、場所は、被控訴人に採用されることによって決定したものであって(この関係については後記2で示す。)、本件配転命令によって決まったものではない」と判示し、その「後記2」では、「昭和六二年四月一日、被控訴人の設立とともに、被控訴人との労働契約の締結により被控訴人に採用され、本件配属通知に示された職務に就くことになった」と判示している。つまり、原判決の言う「採用」とは、新会社設立という昭和六二年四月一日午前〇時の瞬間において行われ、同時に控訴人らと労働契約が締結され、はじめて新会社の勤務箇所が決定されたと言うのである。しかし、言うまでもなく、控訴人らは、昭和六二年四月一日午前〇時をもって突然に採用されたわけでもなく、労働契約を締結したわけでもなく、また、勤務箇所を定められたわけでもない。それに先立つ一連の手続きの中で、採用通知を受け、配属通知を受けているのである。原判決によれば、それらの手続きは、全く法的意味を有しないと言うのであろうか。このように、この点に関する原判決の判断は全く非現実的である。
四 また、原判決は、「仮に本件配転命令が無効であり、控訴人らが国鉄における右命令前の地位にあったとしても、直ちに被控訴人においてそれと同じ地位にあるということはできない。即ち、国鉄における労働関係がそのまま被控訴人に承継されるものでないことは、繰り返し判示しているとおりであり、被控訴人が国鉄職員の国鉄退職時点における地位をそのまま被控訴人における地位に読み替えて採用したのは、鉄道業務を継続しながら大量の職員を一時に採用するための方途であって、本来被控訴人は採用に際し職員を配置する裁量があるというべきであり、控訴人らが従前の地位において被控訴人に採用される権利を有していたとはいい難い」と判示している。しかし、原判決の右判示は全く不可解である。「本来被控訴人は採用に際し職員を配置する裁量がある」と言いながら、しかし実際に、その裁量を行使することが不可能であったことは原判決自身認めているところである。不可能だったからこそ、新会社設立前に、国鉄が、本件配転命令を実施し、それに従った配属通知を行ったのである。不可能な裁量権行使であるのに、本来裁量があると言うのは、全く意味がない。
つまり、控訴人らの本件配転は、本件配属通知と一体なのであって、それらを分けることはできないものであった。ところが、原判決は、被控訴人が、独自に、採用にあたって配属通知を為し得るかの如く認定しているが、それは全くの虚構であることは明らかである。もとより、被控訴人自身、その事業運営上、独自に配転を行うことは可能であり、現に新会社設立後まもなくの昭和六二年六、七月に大規模な配転を実施している(その内の一部が、秋田地方労働委員会で、不当労働行為と認定された)。しかし、そこでの配転と本件配転とは、その手続きも背景も全く異なるものであることはいうまでもない。原判決自身、本件配属通知は、国鉄の配転命令をそのまま機械的に読み替えたと判示していることからも判る通り、被控訴人会社が独自に配属できる余地はなかったのである。従って、被控訴人会社の配属上の「裁量」を理由に、不当労働行為責任から解放されることはないのである。
五 原判決は、「仮に本件配転命令が無効であり、控訴人らが国鉄における右命令前の地位にあったとしても、直ちに被控訴人においてそれと同じ地位にあるということはできない」という。では、控訴人らは、その無効な法律行為について、どのような救済ができるのだろうか。しかも、この無効とは、単なる民・商法上の無効ではない。憲法に由来する労働組合法の定める不当労働行為制度による無効であって、本来その救済は、十分に図られなければならないはずのものである。従って、本件配転命令が不当労働行為により無効であれば、控訴人らは、従前の職場での地位にあるはずであり、その救済とは、その従前の職場での勤務関係に戻すことのほか考えられないはずである。ところが、この地位を被控訴人に求めることができない理由として、原判決は、「本来被控訴人は採用に際し職員を配置する裁量がある」からだという。つまり、仮に本件配転命令が無効で控訴人らが従前の職場での勤務関係にあったとしても、採用における配属で、本件配転命令と同じ職場へ配置できる、というのである。この論理によれば、本件配転命令が無効の場合には、本件配属通知が、実質的に、控訴人らの新会社における地位を決定するということになる。これは、先に指摘したように、本件配属通知が、単に本件配転命令を「読み替えた」だけであり、実質的な決定ではないという原判決自身の論理とも矛盾するし、何より、実態に反することは言うまでもない。しかも、新会社での配属が全く被控訴人の「自由裁量」にあり、その判断について、何ら問擬する余地がないということもできない。何度も指摘しているように、被控訴人会社への配属は、昭和六二年四月一日に突然決定されたわけではなく、円滑な鉄道業務の継続を図るために、採用通知に引き続く本件配転命令から本件配属通知までの一連の手続きを経て、控訴人らをはじめとする職員の配属が決定されてきたのである。その過程の中で、重要な位置を占める(このこと自体は被控訴人も原判決もあえて否定しないであろう)本件配転命令が不当労働行為であるなら、その配転先への配属には、何ら合理的理由がないのであるから、採用にあたっての配属も、合理的理由のない本件配属通知における配属が許容されるはずがないのである。
六 また、原判決は、「実際にも国鉄と被控訴人の職制とは必ずしも一致せず、本件配転命令前の国鉄における職場に対応する被控訴人における職場があるともいえない」と判示している。しかし、昭和六二年四月一日の前後において、国鉄と被控訴人会社との職制上の比較をすれば、職名等は異なるにせよ、互いにそれぞれ対応する職名が存在していたのであり、その時点では職制上大幅な違いはなかった。だからこそ、本件配属通知でも、機械的に、本件配転命令を読み替えることができたのである。新会社設立後、改めて大幅な職制の変更が仮に行われたとしても、それは、本件の判断上何ら影響を与えないはずであるし、原判決も、そのような職制の変更を認定しているわけではない。とすると、原判決が判示する前記「職制」示々とは、一体いつの時点でのいかなる事柄を指すのか全く理解できないものである。
また、「本件配転命令前の国鉄における職場に対応する被控訴人における職場があるともいえない」という点も理解しがたい。前記の通り、新会社発足時に、職名が変更した点はあるとしても、その時点で大幅な職場の統廃合が行われたわけではないから、それぞれに対応する職場はあったはずである。おそらく、原判決は、控訴人らの一部が所属していた「人材活用センター」という職場が、昭和六二年三月一〇日に廃止されたことを念頭に置いているのかもしれない。しかし、右の通り、控訴人らが全員「人材活用センター」に所属していたわけでもないし、そもそも、「人材活用センター」は、昭和六一年夏頃から、設置されたもので、国鉄の分割民営化に当たって、国鉄労働組合(国労)組合員への差別的取扱いとして利用されたなど、それ自体問題の多い職場であり、しかも、右の通り、わずかの期間の臨時的な職場であった。だからこそ、設置後わずか半年余りの昭和六二年三月に廃止されたのである。従って、「人材活用センター」に所属していた控訴人らについても、それ以前の元職場での勤務関係に復することは当然できたはずなのである。翻って考えてみても、例えば、解雇や配転を争い訴訟中に、従前の職場が、機構改革などで無くなることはありうることであるが、だからといって、従前の職場がないことを理由に、当該解雇や配転の無効という判断が左右されることはありえない。その場合、従前の職場に相当する職場への勤務関係を認めるのが通例であることは、いちいち事例をあげるまでもないであろう。この当然の事理があるにも関わらず、原判決が、従前の職場の有無に言及したのかは、これまた、全く理解に苦しむほかない。
七 以上の通り、原判決は、ことさらに、配転と配属を分断し、国鉄と被控訴人会社とを峻別し、本件配転が不当労働行為によることの責任を免罪するという結論に向かって、ひた走っているように見える。そのため、原判決の論理は、極めて非現実的であり、時には、互いに矛盾し、非論理的でさえある。これは、不当労働行為制度について、全く考慮を払わず、しかも、国鉄から被控訴人会社への移行に当たっての一連の配転・配属であったというその間の密接な実態に目をつぶっているからである。原判決を前にして、では、この不当な配転を受けた控訴人らは、一体どのようにして自らの権利を守ることができたのだろうか、という率直な疑問を誰しも持つだろう。不当労働行為直後に、会社が倒産等で消滅した場合ならともかく、本件では、立派に被控訴人会社が存続しているのである。しかも、その会社発足に当たって、発足後の業務遂行の為に、被控訴人設立委員会から採用通知を受けた控訴人ら国鉄職員について、本件配転が行われ、それと全く同じ勤務箇所を示した本件配属通知が出され、その結果、国鉄の事業を承継した被控訴人会社が、発足し、現に控訴人らを雇用して存続しているのである。その一連の過程の中で、不当労働行為が行われたとしたら、被控訴人に対して、その救済の責任を果たさせるのが、最も労働組合法の適用にふさわしく、また、事案の解決にふさわしい。司法に対して、労働組合法の適用を求めて救済を求めてきた控訴人らに、仮に不当労働行為があるとしても救済できないという結論を説明することはおそらく不可能であろう。本件の本質は、控訴人らに対する労働組合所属を理由とする差別的不利益取扱い即ち不当労働行為である。このことは、既に再三主張していたところであるが、本件配転前後の国鉄及び被控訴人会社の言動によって明らかにされている。すなわち、本件配転に先立って、被控訴人会社等本州各承継法人に国労所属の職員がほとんど採用される見込みが明らかになった時点で、国鉄秋田鉄道管理局臼木総務部長は、「新会社内での扱いは違うはずだ」と述べ、国労所属組合員への差別取扱いを示唆していた(甲第五三号証)。本件配転は、この総務部長の発言の直後にされたのである。しかも、一般社員で、控訴人らのように転居を伴う遠隔地への配転を命じられたのは、ほとんどが国労組合員であったことは、右総務部長の示唆発言を裏付けるものであった。更に、右配転前後を通じて、国鉄ないし被控訴人会社において、国労を脱退した者が、逆に山形県から秋田県等出身地ないし希望地に配転されたことも、国労からの脱退を促した露骨な支配介入として、典型的な不当労働行為であった(甲第一二二、一二九号証)。この露骨な利益誘導による不当労働行為は、控訴人らと同時に本件配転を受け、本訴に先立つ仮処分の申請債権者や、本件控訴人らにも及んだ。その結果、例えば、東能代保線区陸奥岩崎管理室(当時)から、山形県の新庄保線区楯岡管理室(当時)に配転された原審における原告松枝修は、国労を脱退し、本訴を取り下げ、現在は東能代工務区(旧東能代保線区)に戻された。同様に、東能代保線区八郎潟支区(当時)から山形県の本荘保線区吹浦保線支区(当時)に配転された原審における原告長岡範夫も、国労を脱退し、本訴を取り下げ、現在は東能代工務区(旧東能代保線区)に戻された。このように、原告ないし控訴人らを単身赴任を含む過酷な生活環境に追い込んだ上、国労から脱退さえすれば、希望通り、元職場に戻すということを繰り返すという、まさに露骨な不当労働行為を行っているのである。
以上のように、本件配転前後から、今日に至るまで、一貫して、国労への敵視と差別的取扱いが繰り返されていること自体、本件配転が、明白な不当労働行為であることの証左である。従って、本件では、このような露骨な不当労働行為を放置するかどうかが問われているということに外ならないのである。
被控訴人は、乙第九四号証の東京高裁判決を提出し、本件への援用を主張する。同判決自体の問題はさておき、そもそも、右高裁判決の事案は、本件の事案と必ずしも同じものではない。同判決から明らかなように、同判決の事案は、新会社に不採用にされた者が、新会社との間で雇用関係があるか否かが問われた事案である。これに対して、本件は、既に採用が決定され、現に被控訴人会社との間で雇用関係がある者との間での紛争である。そのため、雇用関係に争いがある間で雇用関係を認めることができるかどうかの問題と(それが不当労働行為救済制度の中で労働委員会が救済命令で行えることは別問題として)、既に雇用関係自体については争いがない間で配転行為による配転先が問題となっている場合とは、当然異なるはずである。その意味で、既に被控訴人との間で雇用関係が認められている控訴人らについて、本件配転を無効として、同じ被控訴人会社の元職場への勤務を命ずることは、法律的には容易なはずなのである。それは、先に述べたように、現に、国労を脱退した旧原告らに対して被控訴人自身が行っていることからも明らかである。
(被控訴人の当審における主張)
一 控訴人らが全面的に援用しているJR北海道、JR貨物採用事件に関する中央労働委員会(中労委)命令は、国鉄とJR各社との間は、別個の法主体であり、両者の間には法律的にも実質的にも同一性は存在しないことを確認し、職員の採用関係も名実共に新規採用であるとした、これらの点で初審である各地労委の命令並びにこれに同調する控訴人らの主張と異なものである(甲第一三四号証八七頁以下)。
ところで、国鉄の行った配転を無効として新企業体である被控訴人に、雇用契約上の地位の確認を求めるのが本訴である。国鉄が自らの判断と責任で行った配転の問題を、どのような理由から別法人である被控訴人の責任に帰属させうるのか、両者が実質的に同一である旨の論理が採れないのであるから、この問題は改革法など関連法律の枠組みを前提として判断されなければならない。
1 中労委命令は、①改革法上募集から採用通知を発するまでの一連の行為につき、設立委員に最終的な権限と責任が与えられているとし、国鉄を設立委員の補助機関と位置づけている(甲第一三四号証八七頁以下)。②その結果、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用内定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員に帰属させることが法の趣旨に沿うものと解さざるをえない(甲第一三四号証八九頁以下)。③設立委員に帰属した不当労働行為上の責任が承継法人に帰属するのでなければ、事実上不当労働行為制度の適用が排除されることになり妥当でないとした(甲第一三四号証九〇頁以下)。
2 しかし、改革法は、採用に係る一連の手続きの権限を国鉄、設立委員にそれぞれ付与しており、それは別個独立のものである。即ち、募集、採用候補者の名簿の作成は国鉄固有の権限とされ、設立委員は右名簿の中から採用者を決定する権限を与えられているにすぎない。両者は主従の関係にないのである。国鉄が設立委員の補助機関であるとする為には、改革法上設立委員に採用候補者の選別等の権限を与えられていることを前提とし、国鉄が設立委員の指揮監督の下に募集選別を行う定めを要するところ、設立委員にはかような権限を与えられておらないことは明らかである。
3 そして本件では国鉄の行った配転につき、右中労委命令の論理を借用して、被控訴人に帰責しようとするものである。しかし、本件配転当時、職員に対する人事権は国鉄にあり、設立委員にないことは自明のことであり、国鉄改革関連法令上、設立委員の権限は前述のように限定されたものであり、これに、国鉄時代の人事異動権まで包含させることは改革法の解釈上不可能である。また、配転は、中労委命令が設立委員に帰責しうる範囲とした「国鉄の行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において」の中にすら含まれていない。控訴人らは、新企業体における労働条件(就業の場所として新会社の営業範囲内の現業機関等において就業するものとするなど)を承知して応募、国鉄を退職して新企業体に採用されたものであり、実質的にも国鉄の人事異動の問題が、新会社における雇用契約上の地位に消長を来すものではない。
4 以上の次第で、設立委員を帰責主体として、国鉄の配転につき、被控訴人の責任を問う控訴人らの主張は失当である。
二 更に、控訴人らは、「原判決の判断は、労働組合法を無視して、国鉄改革法の判断にのみ頼ったからである。しかし、改革法は、労働組合法に優先するものではない。同法の解釈にあっても、まず、不当労働行為が行われていれば、その救済が、労働組合法によって、実現されなければならないのであって、それが、国鉄改革法によって免罪されることは、ありえないのである。仮に、労働組合法の適用と国鉄改革法の適用が交錯する場面があったとしたら、言うまでもなく、労働組合法が優先されるのである。」などとも主張している。
所論は、改革法二三条等の解釈からは、国鉄の行為につき新会社に帰責することは到底無理であると認識したため、その解釈に当たっては、不当労働行為の救済を可能にするよう合目的的に行わねばならないというものであるが、改革法の解釈を恣意的に曲げることになり、倒錯した論理というべきである。
第三 当裁判所の判断
一 本件の争点
本件は、昭和六二年三月一〇日当時、国鉄に雇用され、それぞれ原判決添付別紙(一)発令一覧表(以下単に別紙(一)発令一覧表という)の前職場欄記載の各職場に勤務し、国労に所属していた控訴人らが、同年国鉄の事業が被控訴人に引き継がれるに際し、被控訴人の設立委員が、同年二月一二日、控訴人らを同年四月一日付けで被控訴人に採用することを決め、同年二月一六日ころ控訴人らに通知した後に、国鉄が同年三月一〇日付けで、控訴人らに対し、別紙(一)発令一覧表の配転先職場欄記載の各職場、同職名欄記載の各職名に勤務すべき旨の配転命令を発し、次いで被控訴人の設立委員も、同月一六日、控訴人らを同年四月一日付けで右と同じ職場、職名に配属することを決め、そのころこの配属命令を控訴人らに通知したことにより、控訴人らは、同年三月三一日国鉄を退職し、同年四月一日、被控訴人に採用されて、右通知にかかる職場、職名において勤務し、現在別紙(一)発令一覧表の現職場欄記載の各職場に勤務しているが、右の本件配転命令及び本件配属通知は、控訴人らが国労組合員であることを理由とした不当な差別待遇であって不当労働行為にあたり、また転居を伴う遠隔地への配転が恣意的になされ、著しい不利益を科するものであるから人事権の濫用であって無効である。したがって、控訴人らが、被控訴人との間で、それぞれ、別紙(一)発令一覧表の現職場欄記載の各職場に勤務する義務がなく、同表の原職場欄記載の各職場に勤務する権利を有することを確認する事を求めるという事案であり、右の発令の経過は、争いがないから、争点はもっぱら本件配転命令及び本件配属命令の効力とそれが控訴人らと被控訴人との労働契約に及ぼす影響ということになる。
二 当裁判所も、被控訴人の右本案前の抗弁は理由がないと判断するが、その理由は、原判決が、二四頁表三行目冒頭から同頁裏八行目末尾までに記載するとおりであるからこれを引用する。
三 本案に対する判断
1 まず、本件の背景として、控訴人らの国鉄における採用や国鉄改革の経過、被控訴人の設立過程、控訴人らが被控訴人に採用される過程については、原判決が一三頁裏六行目から一四枚目表七行目までに掲げる証拠によって、原判決一四枚目表九行目冒頭から二四枚目表二行目末尾までのとおりの事実を認定することができる。すなわち、
「(一) 控訴人らの国鉄における採用等
(1) 国鉄においては、一般の職員の採用は、各鉄道管理局長に委ねられており、当該局長の管轄する鉄道管理局の範囲内において運用されることとされていた。
(2) 控訴人らは、いずれも昭和四五年から五七年にかけて、国鉄秋田鉄道管理局において採用された。同局の管轄は、青森県の一部(奥羽本線の津軽新城以南)、秋田県及び山形県の一部(奥羽本線は米沢以北、羽越本線は本楯以北)であり、控訴人らの採用に際しては、右管内のいずれの箇所にも勤務可能であることが応募資格とされていた。そして、同局管内の山形県地域では、従前から地元出身者が少ないため、秋田県出身で一旦は山形県内で勤務する者が多く、控訴人らの中にも同県内で勤務したことのある者が含まれている。
(3) 国鉄の就業規則において、人事異動につき、次のように定められていた。
一八条 職員の人事上の異動(転勤、転職、昇職、降職、昇格、降格、昇給、降給、休職、復職、派遣、休業、復業、退職及び免職)については、所属長又はその委任を受けた者が行う。ただし、総裁が採用を決定した大学卒業者の免職を除く。
一九条 ①業務上必要ある場合は、職員に人事上の異動を命ずる。
② 職員は、正当な理由なくして、前項の人事上の異動を拒むことはできない。
(4) 国鉄と国労は、昭和四六年三月二日、雇用の安定等に関する協約を締結し、機械化、近代化、合理化等の実施に際し、①雇用の安定を確保するとともに、労働条件の維持改善を図ること、②本人の意に反する免職及び降職は行わないこと、③必要な転換教育等を行うこと、④配置転換となる者及び職員の申し出による休職の取扱いを希望する者の取扱いについては、別に定めるところによるものとすることを約し、更に、右④に基づいて、同年五月二〇日、配置転換に関する協定を締結した上、右協定に付属して、配置転換後において、本人が配置転換前の職場への復帰を希望する場合は、要員需給等を勘案し、できる限り復帰できるようにすることが了解されており、実際上本人の意思に反する異動は困難になっていた。
(二) 国鉄改革の経緯
(1) 国鉄は、昭和三九年ころから多額の赤字を計上するようになり、様々な再建策が論じられたが、その中で、全国一律の公社という経営体制の見直しとともに、民営鉄道に比し人員が多く経費に占める人件費の割合が高いといういわゆる余剰人員の問題が指摘されていた。
(2) 昭和五八年六月一〇日、日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法に基づき、日本国有鉄道再建監理委員会が発足し、同委員会は、昭和六〇年七月二六日、国鉄を分割・民営化し、人員は民営鉄道並みの適正規模(約一八万三〇〇〇人)に二割上乗せした程度を妥当とすること等を骨子とした国鉄改革に関する意見を内閣総理大臣に提出した。
(3) 同月三〇日、右意見を最大限に尊重する旨の閣議決定が行われ、この趣旨に沿って、①国が、被控訴人を含む六つの旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社を設立して、国鉄が経営している旅客鉄道事業等を地域に応じて前者に、貨物鉄道事業を後者にそれぞれ引き継がせ、新幹線鉄道保有機構を設立して、新幹線鉄道の施設の一括保有等に関する業務を行わせ、これらのほか、国鉄が行っている事業又は業務の一部についても新会社に引き継がせ、右引継後は、国鉄を清算事業団に移行させ、承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほか、臨時に、その職員の再就職の促進を図るための業務を行わせるものとすることなどを骨子とする日本国有鉄道改革法(改革法)、②新会社に関する会社法(新会社法)、③新幹線鉄道保有機構法、④日本国有鉄道清算事業団法(事業団法)、⑤日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法、⑥鉄道事業法、⑦日本国有鉄道改革法等施行法、⑧地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律(国鉄の経営形態の改革に伴う所要の改正を行うもの)、⑨日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度においで緊急に講ずべき特別措置に関する法律のいわゆる国鉄改革関連九法案を国会に提出したところ、右⑨については昭和六一年五月に成立したものの、その余は一旦廃案になった。
(4)右廃案になった八法案は、同年九月から再度国会で審議されたが、右審議に際し、新会社の職員の採用について、運輸大臣は、設立委員の「採用の方針に従って、補助者の立場として国鉄はその意を受けて個々の職員の方々の希望を聞きながらその配置を決めていく。いわば新会社のお手伝いをするということでありましょう。」、政府委員(運輸大臣官房国有鉄道再建総括審議官)は、名簿作成等について国鉄が行うということは「法律的に見ますと、事実行為の委託といいますか、準委任、民法で言いますと準委任という関係になろうかと思います。」、設立委員と国鉄が「同人格かどうかという、そういう観点から私ども考えたことはございません。」などと述べた。
右各法案は、いずれも、同年一一月二八日、可決成立し、同年一二月四日、公布された。
(三) 国鉄改革をめぐる労使関係
(1) 国鉄には、もと国労のほか、鉄道労働組合(以下「鉄労」という。)、国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。)及び全国鉄施設労働組合(以下「全施労」という)などの労働組合が存した。
(2) 国鉄の経営の悪化に伴い、労使慣行に対する批判も強まり、昭和五七年三月四日、運輸大臣は、国鉄当局に対し、いわゆるヤミ手当、突発休、ヤミ休暇、現場協議制の乱れなどの全般について、実態調査等の総点検を行い、調査結果に基づき厳正な措置をとるよう指示した。これを受けて、国鉄では、同月から昭和六〇年九月まで、半年に一回ずつ八回にわたり総点検を行った結果、他の点は概ね是正されたが、勤務時間内の入浴及びリボン・ワッペンの着用については、鉄労、動労及び全施労は概ね是正に応じたものの、国労は、既得権、慣行、労働者の団結権といった主張をしてこれに抵抗した。
(3) 国鉄は、昭和五九年度期首において、約二万五〇〇〇人の余剰人員を抱えており、同年六月五日、各組合に対し、①現行協約による退職勧奨制度の枠組みを維持しつつ、在職条件・退職条件を見直し、勧奨退職の促進を図ること、②現在、退職の意思表示を前提とした本人の申し出による休職制度があるが、この制度を改訂し、退職前提の休職制度と復職前提の休職制度とに拡充すること、③現在、指定職員については、関連企業の育成・強化、人材の育成・民間マインドの導入、業務に必要な事項の調査・研究、海外技術協力その他の見地から、一定期間他企業等へ派遣することのできる制度が設けられているが、指定職以外の残員についても同様な制度を設けることなどの余剰人員対策を提示し、更に具体的な検討を加えた上、同年七月一〇日、右三点を骨子とする余剰人員の調整策を提案した。動労、鉄労及び全施労は、退職制度の見直しを除き、同年一〇月九日、妥結し、国労は公共企業体等労働委員会のあっせん等を経て、翌昭和六〇年四月九日、退職、休職、派遣に関する協約を締結した、しかし、国労は、国鉄の右方針に反対し、退職、休職、派遣に協力しない「三ない運動」(「やめない」、「休まない」、「出向かない」というもの)を行ったため、国鉄は、同年五月二五日、国労に対し、文書で右運動の中止を求めるとともに、このような状態が続けば右(一)の雇用の安定等に関する協約の存続にも深刻な髪響を及ぼすことにもなりかねない旨申し入れ、結局右協約の更新に応じず、同年一一月三〇日の経過により右協約は失効し、これとともに前記配置転換に関する協定も失効した。
(4) この間、同年七月には前記再建監理委員会の意見が出されて、国鉄の分割・民営化の動きが具体化した。これに対し、国労は、従来から分割・民営化に反対の立場をとり、それを示すワッペンを着用するなどの闘争を行ったが、鉄労は同年八月の大会で分割・民営化の支持を決定し、更に従来これに反対していた動労も労使協調路線に方針を変更し、翌昭和六一年一月一三日、国鉄と鉄労、動労及び全施労は、国鉄改革及び雇用の安定に労使が一致協力して取り組む旨の労使共同宣言を締結した。
(5) 同年三月、国鉄は、余剰人員対策を円滑に進めていくために、雇用の場が地域的に偏在している状況をふまえ、地域的不均衡を調整していく必要があるとして、広域異動を行うことを各組合に提案した。これに対し、国労は、広域異動は、配転であり労働条件の変更であるとして、団体交渉を求めたが、交渉は行われなかった。他方、鉄労、動労及び全施労は、基本的に了承して、同月一四日、協察を締結し、これに基づき、同月以降、北海道や九州から東京等に計約三八〇〇名が異動したが、右広域異動の実施については、異動先における将来の配属に際しての希望は可能な限り、優先的に配慮する旨了解されており、実際の運用においても、一定期間後は、概ね本人の希望地に戻す扱いがされていた。
(6) 同年七月ころから、国鉄は各地に人材活用センターを設置し、国労の活動家らが多く配属されて、鉄道事業とは無関係の職務に従事させられるなどしたため、右センターに配属されると、民営化後の新事業体にいけないのではないかという不安が職員らに広まった。
(7) 国鉄は、同年八月二七日、鉄労、動労、全施労及び真国鉄労働組合(雇用安定協約の締結を主張するグループが国労を脱退して結成したもの)によって組織された国鉄改革労働組合協議会と、今後の鉄道事業のあり方についての合意事項(第二次労使共同宣言)を締結したが、右合意事項において、労使は、分割・民営化を基本とする国鉄改革に向かって一致協力すること、組合は、今後争議権が付与された場合も鉄道事業の健全な経営が定着するまで争議権の行使を自粛すること、今後の鉄道事業が健全な発展を遂げるためには、業務遂行に必要な知識と技能に優れ、企業人としての自覚を有し、向上心と意欲にあふれる職員により担われるべきであり、これまでにも派遣・休職制度等、直営売店、広域異動等を推進し、労使共同宣言に則り着実な努力を重ねてきたが、今後は更に必要な教育の一層の推進を図るとともにそれぞれの立場において職員の指導を徹底すること等が謳われていた。
(8) 同年一〇月九日及び一〇日、国労の第五〇回臨時全国大会において、労使共同宣言を締結し雇用確保を図ろうとする緊急執行部方針案が提出されたが、否決され、国鉄の分割・民営化に反対する新執行部が選出された。この前後から国労の組合員の脱退が相次いでいたが、翌昭和六二年二月、旧執行部を中心として新たな組合が結成された。
(四) 被控訴人における採用の経緯等
(1) 前示改革法等国鉄改革関連法の成立を受け、昭和六一年一二月四日、運輸大臣は、会社法附則二条一項に基づき、新会社の設立委員(各会社に共通の委員及び各会社ごとの委員)を任命し、更に、同月一六日、国鉄の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画が閣議決定され、国鉄の職員のうち、承継法人の職員となる者の総数は二一万五〇〇〇人、うち被控訴人については八万九五四〇人と定められた。
(2) 同月一一日、第一回の設立委員会が開催されて、新会社の職員の採用の基準と労働条件の基本的な考えが決められ、同月一九日、第二回の設立委員会において更に詳細な労働条件が定められ、国鉄に対し、右採用の基準及び労働条件が提示された。
(3) 国鉄は、これを受けて、同月二四日から翌昭和六二年一月七日までに、職員に対し、被控訴人ほか承継法人に採用を希望するか否かの意思確認を行ったが、この際、各承継法人の概要(事業内容、設立時の事業地域、職員数、経営諸元、設立委員など)並びに採用の基準及び労働条件(被控訴人については原判決別紙(三)のとおり)が示され、原告らはいずれも被控訴人への採用を希望した。この間、同月六日、国労秋田地方本部執行委員長は、国鉄秋田鉄道管理局長に対し、新会社の採用に当たっては本人の第一希望を尊重し、その実現を図ること、配属に当たっては現地・現職を基本とすること、要員の地域間の不均衡については、地方局間の業務移管などにより解消を図ること、広域助勤や配転のローテーション化を図ることなどを申し入れた。
国鉄は、職員の意思と採用基準等を勘案の上、承継法人の職員となるべき者の名簿を作成し、同年二月七日、これを設立委員に提出した。なお、承継法人への採用を希望する職員が予想外に少なかったことなどから、被控訴人はじめ本州における国鉄の旅客鉄道事業を引き継ぐ会社には、希望者は概ね採用されることになり、秋田鉄道管理局管内においても、採用基準に適合しないと判断された一名を除き、原告らを含め希望者は全員が右名簿に記載された。
(4) 同月二一日、第三回の設立委員会が開催され、右名簿に記載された者は全員採用されることになり、同日付けの、原告らを含めこれらの者に対する「あなたを昭和六二年四月一日付けで採用することに決定いたしましたので通知します。なお、辞退の申し出がない限り、採用されることについて承諾があったものとみなします。」と記載された採用通知(被控訴人については被控訴人設立委員会委員長斎藤英四郎名)が、同月一六日以降送付された。
(5) 国鉄は、従前から年度末の職員の退職やダイヤグラムの改正に併せて、二、三月ころ大幅な人事異動を行っていたが、昭和六二年は、国鉄改革に伴う希望退職者や公的部門への転出者が大量に生じたほか、右(4)の通知により承継法人への採用も決まったこと、更に、右採用者が本来の鉄道事業の適正人員を上回る数であったことから、余剰人員の配置が必要となることなどの事情も加わったため、これらをふまえて、二月から三月一〇日までに大量の人事異動を行い、控訴人らに対しても、本件配転命令がなされた。控訴人らは、同月五日、右命令の事前通知について、国労と国鉄との労働協約に基づき、簡易苦情処理会議に申告したが、同月九日、いずれも要員需給等を勘案した上での人事運用であるなどとしてこれを却下する裁定がなされた。
なお、右同月一〇日までの異動によって、人材活用センターは廃止された。
(6) 新会社の設立委員は、同月一六日付けの、前記採用通知をした者に対する「昭和六二年四月一日付けで、あなたの所属、勤務箇所、職名等については、下記のとおりとなります。」として、当該職員の所属、勤務箇所・職名、等級、賃金その他の記事を記載した通知(被控訴人については前記委員長名)を作成し、控訴人らを含むこれらの者に同日以降送付したが、右通知の勤務箇所及び職名は、右時点の国鉄におけるもの(従って控訴人らについては本件配転命令後のもの)を被控訴人におけるそれに機械的に読み替えたものであった。同月一七日、第四回の設立委員会が開かれ、新会社の役員や定款について決められた。同月二三日、被控訴人の創立総会が開催され、右定款を承認して、取締役及び監査役を選任するなどし、引き続き取締役会が開かれて、代表取締役が互選された。
(7) 新会社への採用を辞退する者も相当数に及んだが、控訴人ら採用希望者は、国鉄に対し退職届を提出し、同月三一日、国鉄を退職した。
(8) 同年四月一日、会社法附則九条により改革法附則二項の施行とともに、被控訴人はじめ新会社が成立し、秋田鉄道管理局の管内を引き継いで、被控訴人に秋田支店(平成二年秋田支社に改編)が設置された。控訴人らは、いずれも被控訴人に採用され、本件配属通知に示された職場に勤務した。」という事実である。
2 次に、改革法、新会社法及び事業団法等による国鉄の分割民営化のための、国鉄から被控訴人ら承継法人に対する事業の引継ぎや権利義務の承継の内容は、次のとおりである(認定に使用した証拠は、特に断らない限り、前項で引用したものと同じである。次項以下も同様である。)。
(一) 運輸大臣は、国鉄の引き継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定め、国鉄は、運輸大臣の指示により、承継に関する実施計画を作成する(改革法一九条一項、三項)。
(二) 国鉄の事業等を引き継ぐ経営組織として新たに株式会社が設立され(改革法六条及び八条)、それぞれ新会社の設立の時において、国鉄の権利及び義務のうち運輸大臣の認可を受けた実施計画(承継計画―改革法二一条、一九条五項)において定められたものを、実施計画において定めるところに従い承継する(改革法二二条)。
(三) 新会社に承継されないものは、国鉄が移行した事業団に帰属する(改革法一五条、事業団法一条、附則二条)。
(四) 実施計画に記載すべき「承継法人に承継させる権利及び義務」から労働契約関係は除外され(改革法一九条四項)、承継法人たる新会社の職員は、設立委員が国鉄を通じて募集する(同法二三条)。
(五) 新会社法附則九条により、改革法附則二項の規定の施行時すなわち同附則一項により昭和六二年四月一日に新会社が成立し、新会社成立と同時に承継計画に基づき国鉄の権利義務が承継され(改革法二二条)、新会社に事業を引き継いだ国鉄は、右改革法附則二項の規定の施行時に事業団となり、新会社に承継されない資産、債務等の処理及び職員の再就職の促進を図るための業務等を行う(改革法一五条、事業団法一条)。
以上の諸規定を総合的に解釈すると、改革法は、従来の国鉄と職員の労働契約関係をそのまま各新会社に承継させることなく、承継法人となる新会社の職員は、設立委員が国鉄を通じて新規に募集することとし、各新会社に事業等を引き継いだ後の国鉄は、人格の同一性を有したまま、事業団に組織及び名称を変更するに至り、新会社に採用されなかった国鉄職員との労働契約関係は、そのまま事業団との間で存続することとされたものというべきである。新会社の職員として採用された国鉄職員は、国鉄を退職し、新会社との間で新たに労働契約関係が創設されることになる。新会社職員の退職手当等に関する通算規定(改革法二三条六項、七項)も存するが、この点は、例えば国家公務員から地方公務員になる場合にも同様の規定(国家公務員退職手当法一三条)がみられるものであって、右のように身分が一旦断絶すると解することの妨げにはならない。
また、事業団の職員は理事長が任命するとの事業団法一七条は、新会社の職員に採用されなかった国鉄職員に関する従来の国鉄との労働契約関係がそのまま事業団との間に存続することを否定する趣旨ではないことは、各新会社に承継される国鉄の権利義務から労働契約関係が除外され、国鉄が新会社に事業等を引き継いだときは事業団に移行し、各新会社に承継されない資産、債務等の処理及び職員の再就職の促進を図るための業務等を事業団が行うことが明文で規定されていること等に照らし、明らかといわなければならない(右の事業団理事長による任命行為に関する右の規定は、新会社の職員に採用されなかった国鉄職員との労働契約関係について、国鉄から法人格を同一にして組織及び名称を変更した事業団との間にそのまま存続することを確認する事務手続上の理由に基づくものと解することができる。)。事業団就業規則の制定及び規定内容についても、同様に右の解釈を左右するものではないというべきである。そして、右のような国鉄改革関連法令の基本的な考え方は、国鉄の鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、効率的で輸送需要の動向に的確に対応しうる新たな経営体制を実現するための経営形態の抜本的な改革として、国鉄の事業を六旅客鉄道会社、一鉄道貨物会社の複数の新事業体等に分割するとともに(改革法六ないし八条、一一条)、国鉄の膨大な余剰人員の可及的解消を図ることとしたものと考えられ(国鉄改革の基本的施策の一つに、国鉄の膨大な余剰人員の可及的解消があることは、改革法及び事業団法等の規定の内容及び次のような国鉄再建監理委員会の最終答申(乙第五号証)の内容、すなわち「昭和六二年度までに完全に私鉄並みの生産性を実現することについては、現行の国鉄における合理化の進捗状況から見てやや無理があると考えられる。また、余剰人員が膨大であることに鑑み、旅客鉄道会社にも経営の過重な負担とならない限度において余剰人員の一部を移籍させることが適切である。」との意見からも窮知することができる。)、たばこと電信電話の各民営化の際に、旧公社が解散され、新会社が旧公社の一切の権利義務を包括承継するとされたことと対照的である。改革法は、従前の労働協約等に基づく国鉄との労働条件についてもこれを維持することなく、新会社における労働条件を、設立委員が募集の際に新たに提示することとしており(改革法二三条)、この点にも、国鉄改革においては従前の労働契約関係を断ち切り、新たな労働契約関係を創設することとした法の趣旨が明示されているものと解することができる。
3 新会社職員の採用手続
新会社職員の採用手続については、改革法二三条が、設立委員にその募集をさせることとしているほか、手続の各段階等を法定し、関係当事者の法律関係は右の規定によって規律されるべきことになった。
(一) 設立委員
新会社法附則二条は、各承継法人ごとに運輸大臣から任命される設立委員が承継法人たる新会社の設立に関し発起人の職務を行い、改革法二三条に定めるもののほか、承継法人(新会社)がその成立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができる旨定めている。商法上では、会社設立にあたり、職員の採用は発起人の権限に含まれていないから、改革法二三条の設立委員の権限は、国鉄改革において特別に法によって付与されたものと考えられる。
(二) 採用手続の概要
(1) 国鉄職員のうち、承継法人(新会社)の職員となる者の総数及び承継法人ごとの人数は、運輸大臣が基本計画において定める(改革法一九条二項三号)。
(2) 設立委員は、国鉄を通じ国鉄の職員に対し、それぞれの承継法人(新会社)の労働条件及び採用の基準を提示して、職員の募集を行う(改革法二三条一項)。労働条件の内容となるべき事項及び提示の方法は運輸省令で定められる(同条四項)。
(3) 国鉄は、承継法人の職員となることに関する国鉄の職員の意思を確認し、その職員となる意思を表示した者の中から、右の採用の基準に従い職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員に提出する(改革法二三条二項)。職員の意思の確認の方法等は運輸省令で定められる(同条四項)。
(4) 右の名簿に記載された国鉄職員のうち、設立委員から採用通知を受けた者であって、附則二項の規定の施行の際現に国鉄の職員である者は、承継法人(新会社)の設立の時において、当該承継法人の職員として採用される(改革法二三条三項)。
(5) 承継法人(新会社)の職員の採用について、設立委員がした行為及び設立委員に対してなされた行為は、それぞれ承継法人がした行為及び承継法人に対してなされた行為とする(改革法二三条五項)。
(三) 以上の改革法二三条をみると、新会社職員の採用手続においては、承継法人の設立委員が、新規に採用する職員について、国鉄を通じて労働条件及び採用の基準を提示して国鉄職員から募集を行い、さらに国鉄が作成した名簿に記載された者の中から職員として採用すべき者を決定し、採用通知を発することなどの行為を行っているが、それ自体は、被控訴人設立までの準備行為であり、控訴人らとの労働契約を成立させる行為ではなく、また、国鉄が、国鉄職員に関する資料を有し、事情を最も良く知っていることと、短期間に大量の事務を処理する必要性から、その職員に対する意思確認、採用の基準に従った選定と名簿作成の各事務を、設立委員に代わって国鉄に行わせたものと解される。一方、国鉄は、改革法二条二項により、改革法に定める方針に基づく施策が確実かつ円滑に実施されるよう最大限の努力を尽くすべく要求されていることにしたがって、被控訴人ら承継法人が昭和六二年三月三一日から四月一日にかけて列車の運行を間断なく継続し、新会社の円滑な業務運営を確保するという観点から人員を配置するために、同年三月一〇日付けで人事異動を行い(本件配転命令)、設立委員も、同様の観点から、本件配転命令による勤務箇所、職名等に対応する新会社の勤務箇所、職名等を、新会社の発足時における社員の勤務箇所、取名等として取り扱うことにして、右配転命令と同一内容の配属通知を行ったものである(本件配属通知)。このように、控訴人らと被控訴人との労働契約関係の創設は、右(1)ないし(4)の過程を経て段階的に行われたものであり、しかも、各段階における権限の範囲と権限者が法定され、相互に他の者の権限の行使についてこれを規制しうる規定がないこと等にてらすと、(3)の国鉄による採用侯補者の選定行為も、専ら国鉄の権限と責任に委ねられたものであって、国鉄の役割が、設立委員の権限に属する採用侯補者選定行為を補助するにすぎなかったものと見るのは至当でない。また、設立委員においては、右名簿登載者の中からさらに選別して採用者を決定する権限と責任を有するが、名簿に登載されなかった国鉄職員については、これを採用しうる権限はなかったものと解するのが相当である。
そして、改革法二三条が、採用の通知を受けた者が承継法人の成立の時に採用されるものとしていること、設立委員がした行為は当該承継法人がした行為とするとの定めを置いていること等にかんがみると、同条は、承継法人が、国鉄とは別個の新たな法主体として成立するものであることを前提とした上、国鉄から提出を受けた名簿に記載された国鉄職員のうち、設立委員から採用する旨の通知を受けた者と承継法人との間で、承継法人の成立の時、すなわち昭和六二年四月一日に、当事者間における特別の意思表示を要することなく、労働契約を創設的に成立させ、その効力を生ずるものと定めたと解するのが相当である。
したがって、控訴人らが、被控訴人の設立委員から本件採用通知を受けたことによって、昭和六二年四月一日、国鉄とは別個の法主体である被控訴人と控訴人らとの間で、改革法二三条の規定に基づいて、右当事者間における特別の意思表示を要することなく、労働契約が成立し、その効力を生じたものである。この場合、職員募集に当たって提示された労働条件の内容にかんがみると、右労働契約は、就業の場所を会社の営業範囲内の現業機関等、従事すべき業務を旅客鉄道事業及びその附帯事業並びに自動車運送事業その他会社の行う事業に関する業務(関連事業の業務を含む。)とする概括的なものとして成立したものと認められるから、被控訴人は、控訴人らの勤務箇所、従事すべき業務等を決定し、控訴人らにこれを命ずる相当広範囲な労務指揮権を有することが明らかであり、その権限に依拠した本件配属通知によってすでに内示されていた具体的な勤務地を含む労働条件による労働契約が成立し効力を生じたものというべきである。
このことは、控訴人らと被控訴人の労働契約は、本件配属通知による内容で創設されたものであり、労働契約上、控訴人らがいう原職場が、労働条件としての勤務地に組み入れられる余地はなかったことを意味するものである。したがって、労働契約上の権利として、控訴人らが、被控訴人に対し、別紙(一)発令一覧表記載の原職場記載の各職場に勤務する権利があるということは、認める余地がないというべきである。
4 被控訴人の採用行為の不当労働行為性
控訴人らは、控訴人らと被控訴人との労働契約の創設に先立ってなされた本件配属通知が、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当し無効である旨主張している。
しかし、証拠(乙一〇、一三、七八、原審証人伊藤嘉道)及び弁論の全趣旨によれば、昭和六二年二月一二日、被控訴人の設立委員が、「昭和六二年四月一日における被控訴会社の社員の採用、勤務指定、等級、呼称及び採用給については、別に辞令を発するものを除き、東日本旅客鉄道株式会社設立委員会委員長名の通知のとおり、発令があったものとみなす。」との内容の「採用並びに勤務指定等について」と題する通達を発し、右通達は、同日付け会社報『JR東日本報』に掲載されて周知手続がとられ、そのころ、控訴人を含む被控訴会社の社員らは、右会社報を閲覧することによりこれを知ったこと、国鉄は、同年三月一〇日付けで、控訴人らに対し、別紙(一)発令一覧表の配転先職場欄記載の各職場、同職名欄記載の各職名に勤務すべき旨を命じ、更に、被控訴人の設立委員は、同月一六日、控訴人らを同年四月一日付けで、右と同じ職場、職名に配属することを決め、そのころこれを控訴人らに通知したこと、被控訴人は、本件配属通知の受領者に対して改めて個別の辞令を交付することを一切行っていないことが認められる。そして、被控訴人の設立委員がした本件配属通知が前記通達にいう『東日本旅客鉄道株式会社設立委員会委員長名の通知』に含まれることは右通達の記載の趣旨から明らかであるから、右認定の事実によれば、控訴人らに対するもののほか、被控訴人の設立委員のしたすべての本件配属通知は、右通達によって、昭和六二年四月一日付け配属発令としての効力を有するに至ったものというべきことは確かである。しかし、前記各証拠及び弁論の全趣旨によれば、右の通達は、前にも述べたように、被控訴人ら承継法人が、三月末日から四月一日にかけて列車の運行を間断なく継続し、新会社の円滑な業務運営を開始するためには、三月一〇日付け人事異動における勤務箇所、職名等に対応する新会社の勤務箇所、職名等を、新会社の発足時における社員の勤務箇所、職名等として取り扱うのが最良の方法であるとした被控訴人の設立委員の判断と同一の判断の下に、被控訴人が、社員おのおのに対する個別的な判断を一切経由することなく、本件配属通知をそのまま四月一日付けの被控訴人の配属発令とみなす措置を採ったものと認められるから、右通達及び本件配属通知について、控訴人らに対する不当労働行為を問題とする余地はないものというべきである。また、国鉄から新会社への移行時において列車運行に万が一にも混乱を生じさせることなく、新会社の円滑な業務運営を開始させることは、国民生活及び国民経済にとって緊要な重要課題であると考えられることからすると、新会社移行の直前に国鉄がした三月一〇日付け人事異動による人事配置をそのまま踏襲した内容の前記各配属通知について、被控訴人が、前記のような判断に基づいてこれを一律に四月一日付けの被控訴人の配属発令とみなす措置を採ったことをもって、人事権の濫用に当たるとすることもできない。したがって、控訴人のこの点に関する主張も、採用することができない。
5 国鉄の不当労働行為について
次に、控訴人らは、国鉄がした本件配転命令は、控訴人らが国労に加入していることを理由とした差別待遇であり、不当労働行為であるから無効であり、国鉄と被控訴人とは形式的には別個独立の法人格を有するとしても、両者は実質的に同一性を有するものであるから、被控訴人に対しても救済を主張できると主張している。
(一) 実質的同一性の理論について
控訴人提出の、甲一三四、一三五号証によると、中央労働委員会は、本件と同種の事案について、国鉄が設立委員の補助機関的役割を果たしたとして、実質的同一性の理論を適用し、不当配転の措置を受けたものの不利益を解消するための措置を執るように承継法人に対して命じていることが認められる(この場合でも、原職場に復帰することを認めてはいない)。しかし、労使関係の将来的正常化のために行政救済上の規範として設定されている労働法の救済原理と、法律関係の確定、義務の強制、損害の転補などを目的とした私法体系に基づいた司法的救済とは、自ずから法原理を異にするところがあるといわざるを得ない。
いわゆる実質的同一性の理論とは、主として、労働委員会において、①新旧両会社の間に、経営者ないし実権者、資本の構成、営業の実態(特に、内容、場所、設備、名称等)について同一性ないし類似性が認められ、かつ、②旧会社の解散と新会社設立に至る諸事情、すなわち、旧会社の解散の必然性ないし合理性の有無、旧会社の解放と新会社設立との時間的接着性、旧会社における組合活動の動向とこれに対する旧会社の対応等に照らし、旧会社の解散と新会社の設立が組合壊滅を目的とした一連の行為であると認められる場合に、新会社を名宛人として救済命令を発することを肯定するための理論として、採用されてきたものと考えられる。しかし、右のように、法律関係とは異なる平面において、不当労働行為等により不利益を被った当事者の原状回復を図る救済手続においてはともかく、法律関係の存否の確定を目的とする民事訴訟においては、社会的・経済的同一性のみをもって法律関係の当然承継を認める法的根拠とすることは相当とは言い難い。また、労働者が有機体としての企業に包括されその構成部分として取り扱われるべき性質を有するものと解すべき実定法上の根拠もない上、そもそも右の理論は、旧会社の解散と新会社の設立が組合壊滅の目的その他違法又は不当な目的に出た場合に適用することを想定したものと考えられ、法人格の濫用の問題と切り離して考えることはできないから、むしろ、別個の法人格を有する者の間において法律関係の同一性を架橋するためには、判断上確立された理論である法人格否認の法理や営業譲渡による承継を判断基準とするのが相当であり、かつ、これをもって足りるものというべきであるが、本件においては以下に述べるとおり、この法理を適用する余地はなく、したがって、控訴人らの実質的同一性に基づく当然承継の主張は採用することができない。
(二) 法人格否認の法理について
法人格否認の法理とは、①法人格が全く形骸にすぎない場合、及び②法人格が法律の適用を回避するために濫用されたような場合に、法人格の異別性の主張を許さないとする法律効果を生じさせるものと解することができる。
控訴人らは主として右の②の場合を主張するものであるが、前記判示との関係上念のため右①の場合に当たるかについても検討するに、右①の法人格が全くの形骸にすぎない場合とは、一方の会社が独立の法人としての社会的・経済的な実体を欠き、実質的には他の会社の単なる一部門ないし名前だけの幽霊会社にすぎないなど、他の会社によって完全支配されている場合をいうものと解されるところ、国鉄改革関連法令に照らし、国鉄改革における各新会社は、独立の資産を有し、独立の採算をもって業務活動を行うのであり、他の会社、法人から支配をうける関係にはないと認められるから、各新会社の法人格が形骸にすぎないということはできない。
次に、右②の法人格の濫用に当たるか否かについて検討するに、各新会社の設立と国鉄の事業団への移行を定めた国鉄改革関連法令の立法経緯は、国鉄の鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、全国一元的な経営体制の下では適切かつ健全な運営が困難になっていることに対処して、国の基幹的輸送機関としての効率的な経営体制を確立し、国民生活及び国民経済の安定及び向上を図る上での緊要の課題に対応するため、その抜本的改革としての基本的施策を法令によって定めたものであること(改革法一条)が認められるから、右法令に基づく各新会社の設立と国鉄の事業団への移行をもって違法又は不当な目的を有するものとはいえない上に、第三者たる国会による立法行為に基づく設立である点からもこれを否定すべきものと考えられる。したがって、各新会社の設立と国鉄の事業団への移行について、法人格濫用による否認の法理が適用されるべき理由はないものというべきである。
(三) 営業譲渡に基づく労働契約関係の承継について
前示のように、我が国においては、労働者が有機体としての企業組織の構成部分としてこれに包摂されて取り扱われるべき性質を有するものと解すべき実定法上の根拠はないから、個々の労働契約関係が営業譲渡に伴って当然に包括的に移転していくものということはできない。営業譲渡は必ずしも全部の権利義務を譲渡しなければならないものではないのであるから、契約により営業が譲渡される場合においても、どのような権利関係を移転するかは譲渡契約当事者間で自由に決められるべきものであり、現実の営業譲渡契約において労働契約関係移転に関する合意があったかどうかが個別に検討されることになる。そして、本件の国鉄の分割民営化に伴う国鉄から各新会社への事業の引き継ぎ及び権利義務の承継については、国鉄改革関連法令によって方式が法定されており、各新会社設立の過程に国鉄の営業の分割譲渡又は営業の現物出資の要素が認められるとして、右法の趣旨が、従来の国鉄職員との労働契約関係についても各新会社にこれを承継させるものであったか否かが問題となるところ、すでに認定したように、国鉄の改革においては国鉄の事業等の分割化と余剰人員の可及的解消による効率的な経営体制の確立を目的とし、国鉄改革関連法令において、事業等の引き継ぎや権利義務の承継とは区別して、新会社職員の採用手続に関する特別の規定を設け、労働契約関係については承継しない旨を明示していることが明らかなのである。また、すでに触れてきたように、改革法二三条は、新会社と職員との労働契約関係が同条所定の段階を経て新たに形成されるものであることを明確かつ具体的に規定しているものであり、労働契約関係の当然承継を前提にした職員振り分けの規定ではないことは明らかといわなければならないので、営業譲渡の法理もまた適用する余地はない。
6 以上の次第で、控訴人らが、国鉄によって行われたと主張する不当労働行為が、被控訴人との労働契約関係に継承されて救済の対象となるべきであるとする主張は採用できず、先に判示したところと併せると、控訴人らが、被控訴人に対して本件配転命令前の原職場に勤務する権利を有する旨の主張はすべて理由がないというべきである。
四 したがって、控訴人らの本件控訴は理由がないから、棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官守屋克彦 裁判官手島徹 裁判官富川照雄)